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ヘルパー体験記
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『星の牧場』に風がきた

不良ヘルパーの悪行

 実は私は、とんでもない不良ヘルパーでした。少しもペアレントさんの言うことを聞かない、酷いヘルパーでした。今にしてみれば、よく、こんな酷いヘルパーを使っていたと、ほとほと感心してしいます。
 どんなYHにも、YHの方針というものがあります。それらの方針は、YHを運営するために、必要不可欠なものです。YHはホテルや旅館ではありません。安い値段で、旅人たちにふれあいの機会を与えるためには、どうしても方針というものが必要になってきます。釧路まきばYHにも、当然な事ながら、方針というものがありました。例えば、

1. 荷物の預りはしない、
2. チェックインは4時からとする、
3. 夕食は6時前にチェクインできる人に限る、
4. 風呂は6時から9時30分までとする、
5. 8時すぎのチェックインは認めない、
6. 門限は9時30分まで、消灯は10時までとする、
7. チェックアウトは朝の9時30分とする。

と、いうぐあいです。

 寺西シェフは、この方針を忠実に守りぬく人でした。あくまでも、釧路まきばYHの方針にそってヘルパー業務をこなす人でした。だから、ペアレントさんがたよりにする理由もよくわかります。しかし、私ときたら、酷いものでした。これらの方針に対して、かたっぱしから逆らっていたのですから。

1. 荷物はかたっぱしから預ってしまい、
2. 雨の日などは、どんどん早めにチェックインの受付を行ないました。ずぶ濡れのライダーやチャリダーなどにはYHの台所をあさり、御茶などを出しました。
3. 夕食だって、7時近くに来る人にも、どんどん食べさせました。
4. 風呂だって、寒い日は、どんどん早めに沸かし、ボイラーのスイッチも随分遅くまで切ることはありませんでした。
5. 10時すぎのチェックインも、事情によっては認め、
6. 門限も、融通をきかせ、消灯は、いつも10時を過ぎて11時近くになってしまい、
7. チェックアウトは、フリーにしてしまいました。

 こんなヘルパー、よく雇っていたものです。それどころか、ペアレントさんは、私のやる事に、一切口を出さなかったから驚きです。例えば、ペアレントさんが、御客さんに
「荷物は預りませんよ」
と、言ってるそばで、私は
「いいよ、いいよ、ここに置いときな」
と言いました。私は、御客さんの前で、ペアレントさんの顔をつぶしたわけですが、ペアレントさんは何も言いませんでした。なんと、寛大な人なんだろうと、私は密かに思ったわけですが、それをいいことに、私は、どんどんペアレントさんの顔に泥を塗る事を始めました。

 チェックアウトが近付き、追出しにかかってるペアレントさん。そんなペアレントさんの前で、私は
「もっとゆっくりしていきなよ!」
と、引き止めたものです。ペアレントさんだダメと言った事でも、私は、よく御客さんに0Kを出したものです。

 そんな事を続けているうちに、ペアレントさんは御客さんの前に出なくなってしまいました。掃除などの雑用しかしなくなってしまいました。そして、御客さんが入って来き、
「すいません〜」
と、何か言われても、ペアレントさんは、
「僕は掃除のおじさんヨ、YHのことなら、あそこの受付に座ってる、偉そうなお兄さん聞いてみなさい」
と言ってるのです。おかげで私は、
「随分、若いペアレントさんですねえ」
と、御客さんに言われるようになりました。

 実際、私は、受付会計からミーティングまで、ペアレントさんの業務を殆ど任されたわけですし、ペアレントさんは、どちらかと言えば、人の嫌がる仕事を中心に行なっていました。便所掃除、ゴミ仕分け、雑巾がけ、草取りなどの汚れ仕事です。今から思えば、なんと頭の下がることか。ヘルパーを辞めた今、私は別にペアレントさんに何のヨイショもする必要がないのですが、本当に、ペアレントさんは良くやっていたように思います。

(そういえば、ヘルパーをやってた時も、何のヨイショもしなかったなあ・・・・少しはヨイショしとけばよかったかなあ)

 私には、ヘルパーをした事のある友人が大勢います。彼らの話しを聞くと、殆どの場合、ヘルパーとペアレントさんの関係が、あまりうまく行ってるとは言えないようです。
殆どのヘルパーたちは、なんらかの不満をペアレントさんに持ちつつ、ヘルパーを辞めていく場合が多いわけです。例外があったとしても、それはペアレントさんが現場に出て来ない場合が多いものです。
 釧路まきばYHのようなYHは珍しいのかもしれません。これは、1にも、2にも、ペアレントさんが、私を立ててくれ、自分は1歩引いていたからです。自分は、掃除のおじさんになり、私のやりたいようにしてくれたからです。おそらく、私は、とても幸せなヘルパーだっに違いありません。

 ところで、私が、ヘルパーを辞める頃の話しです。受付に座ってる私は、ある郵便物を目にしました。それは、請求書でした。電気料金、ガス料金、灯油料金、水道料金といった請求書でした。その請求書に書かれてある金額を知った私は仰天してしまいました。
 なんて金額なんだ!
 そう言えば、言ってたっけ、釧路地震でYHが崩壊して、随分借金したって。ああ、消灯時間を延したのも、どんどんボイラーを焚いて風呂の時間を延したのも私だった。私は、いつも御客さんの事ばかり考えてて、少しも釧路まきばの事を考えていなかった。ああ、ペアレントさん、悦子さん、ごめんなさい! 私は、後髪の引かれる思いで釧路まきばYHを去るはめになったのです。
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