トップページ ヘルパーとは 仕事内容 待遇その他
募集要項 時間割 体験記 リンク
ヘルパー体験記
『星の牧場』に風がきた

牧場へ、いらっしゃい!
 手紙
  ヒールとベビーフェイス
 再建
 無垢(むく)の木
 ナホちゃんのオカリナ
 マキロン

牧場へ、いらっしゃい!

ヒールとベビーフェイス

 プロレスには、ヒールとベビーフェイスという言葉があります。ベビーフェイスとは、正義の味方のレスラーのことです。そして、ヒールは悪役レスラーのことです。もちろん役の上でのことですから、本当にベビーフェイスが正義の味方ではないし、ヒールの方も本物の悪人ではありません。

 実は、プロレスの世界チャンピオンは、必ずと言っていいほどヒールです。何故ならば、世界チャンピオンは、世界中のベビーフェイスと戦かわなければならないからです。
 自分が悪役になることによって地元のベビーフェイスを引き立たせ、地元のファンを喜ばせなければならないからです。つまり、世界チャンピオンは、世界中のプロレスファンから憎まれることによって、プロレス界を支えているわけです。

 『泣いた赤鬼』という民話を知っていますか? 私の大好きな民話です。人間と友だちになりたかった赤鬼は青鬼に相談しました。青鬼は赤鬼に言いました。

「俺が人間の所に行って暴れよう。そこにお前が現われて、俺を退治するんだ」

 赤鬼は、言われた通り人間の所で暴れる青鬼を退治しました。おかげで赤鬼は人間たちと、とても仲よくなれました。ところが、それから青鬼と連絡が途絶えるようになりました。心配した赤鬼は、青鬼の所に訪ねて行きました。すると青鬼は引越してしまった後でした。誰もいない青鬼の家には、
「赤鬼君、人間たちと仲よくやってるかい? 僕は遠くに旅立つよ。僕が君のそばにいては、君はいつまでも人間たち仲よくやっていけないからね」
という手紙がありました。赤鬼は泣きました。何日も何日も泣きました。

 この『泣いた赤鬼』では、赤鬼がベビーフェイス(=正義の味方)で、青鬼がヒール(=悪役)です。私は子供の頃、ヒールである青鬼に涙しました。何度も何度も涙しました。それほど青鬼の行為に、心が打たれたのです。

 話が長くなってしまいましたが、このヒールとベビーフェイスは、『風のたより』にも存在するのです。☆☆君。『風のたより』に青鬼がいるとしたら、この男に違いありません。今までの『風のたより』隊の記事を読んで頂ければ、わかると思いますが、☆☆君ほどボロクソに書かれた男はいないと思います。ボロクソに書いた人間は、他ならぬ私です。
 私は☆☆君にヒールを求めました。彼を無理矢理、青鬼にしたのは私でした。☆☆君も、そこは解っていてくれて、『風のたより』最大のヒールを演じ続けました。私には、☆☆君に借りがあるのです。

 よしっ!
 ☆☆君の所に行ってやろう!
 あいつの疑問に答えてやろうじゃないか!
 あいつの苦しみを解いてやろうじゃないか!
 あいつからの今までの借りを、
 利子を含めて全部返してやろうじゃないか。


 仕事のキャンセル。これで大勢の人たちに迷惑がかかったことをここに御詫びしておきます。実は、私は仕事先で、ずいぶん恵まれた環境にいますが、それは仕事仲間(上司を含む)が『風のたより』の読者であるからです。
 『風のたより』関係の仕事のキャンセル。これは土井君をはじめとする大勢の関係者に迷惑をかけてしまいました。
 『風のたより』隊、九州遠征のキャンセル。実は私は、大勢の皆さんから九州遠征参加の打診を頂いていました。それに対する詫び状、そして他の皆さんに九州遠征キャンセルを伝えるために大急ぎで製作された「風のたより」19号。「風のたより」19号は、☆☆君がヘルパーを辞めてから私が釧路まきばYHに旅立つまでの五日間で製作された史上最短製作記録の『風のたより』です。そして、準備万端整え、さあ釧路まきばYHに出発しようかという時に、☆☆君から電話がかかってきたのです。

「佐藤、俺、キャンセルするよ・・・・」
「え、何を?」
「これ以上、釧路まきばYHのヘルパーを続けることをキャンセルするよ」
「・・・・」

 ついにきてしまった。恐れていたことが起きてしまったのだ。☆☆君は、私が応援に行く前にギブアップしてしまったのだ。青ざめた私は、すぐに釧路まきばYHのペアレントに電話しました。

「もしもし、釧路まきばYHさんですか?」
「ああ、風さん?」
「今、困ってます?」
「困ってる。全く困ってる。本当に困ってる」
「俺が☆☆君の代りに行きましょうか?」
「え? 来てくれるかい? それだと助かるなあ〜」

 釧路まきばYHのヘルパーの仕事の性質からして、今から☆☆君の後任を育てることは不可能です。釧路まきばYHが、大パニックになることは、まちがいありません。
 釧路まきばYHのペアレントさんも、私に気を使って一生懸命に☆☆君を育てていることでしょうから、計算が狂ってしまうに違いありません。
 もちろん私の方も狂ってしまいます。仕事のキャンセル。『風のたより』隊ツアーのキャンセル。『風のたより』製作のキャンセル。こうして私は、飛行機で釧路まきばYHに向いました。

 飛行機の中で、私は久しぶりに緊張していました。戦場に向う戦士のように武者震いが止りませんでした。はたして、釧路まきばYHでは、私を快く迎えてくれるだろうか? 私は、自らの緊張を解きほぐすために、去年ヘルパーやった時にもらった、たくさんのホステラーさんからの手紙を読んでいました。

 全国のヘルパーの皆さんに伺います。住所交換をしてないホステラーさんから手紙をもらったことがありますか? 私が言ってるのは、ヘルパーとホステラーの立場をこえて仲よくなった人からもらった手紙のことではありません。話さえしてない人から手紙をもらったことがあるかと聞いているのです。

 ヘルパーをやってて誘惑にかられることは、ホステラーさんと個人的に仲良くなることです。もちろん、それが悪いと言ってるのではありません。全てのホステラーさんと、それができるのなら私も躊躇なくホステラーさんと個人的に仲良くなっています。しかし、釧路まきばYHには60人の泊り客がいるのです。そんなことは不可能です。
 YHにおいて、ヘルパーほど『強者』はありません。その権力は、常連客の比ではありません。その気になれば何だってできます。ホステラーさんは、見ず知らずの旅人より、ヘルパーの方を圧倒的に信頼しているわけですし、なによりヘルパーは、その土地の情報に圧倒的に詳しいのです。第一、ヘルパーはYHの規則を握っています。やろうと思えば、気に入った御客さんだけを事務所に集めることは簡単です。その時、YHの台所から食料を持ってくることだってできるわけです。

 正直いって私は、ホステラーさんを『風のたより』に呼びたかった。ホステラーさんを『風のたより』に呼ぶために一番効率的な方法は、御客さんと個人的に仲良くなる方法です。気にいった御客さんを特別扱いすることです。そして私には、それが簡単にできる立場と特権があったわけです。でも、それをしたら自分が今までやってきたことは全て嘘になってしまいます。

 『風のたより』に来て欲しい。
 『風のたより』を読んでほしい。

 でも、そのために御客さんと個人的に親しくはなれない。では、どうすればいいのか? 特定の御客さんを『ひいき』するのではなく、自分がヘルパーとして一生懸命に頑張っている姿をホステラーさんに見てもらおう。一生懸命頑張ってる姿に何かを感じてもらおう。
 そのうえで、もし『風のたより』に興味のある方があったら、『風のたより』を読んでもらおう。『風のたより』に来てもらおう。そういう方針で私はヘルパーやってきました。もちろん☆☆君も、それを実行したわけです。彼の手紙に書かれてあった、あの叫びの中には、そういう背景があったわけです。
 これは辛い選択です。普通なら気が狂いそうになる選択です。ただ嬉しい事には、それでもたくさんの読者が『風のたより』に来てくれたわけです。個人的に親しくならなくても、たくさんの人たちが『風のたより』に、私に手紙をくれたわけです。『風のたより』の爆発的な飛躍は、そういう活動の中から生れてきたのです。

 個人的に仲良くなるのではなく、御客さんに心を込めて接することで、御客さんに何かを感じてもらう。例えば、障害者や御老人のホステラーさん。生れて初めて一人旅をする人や、生れて初めてYHに泊る人に、声をかけたり助言やアドバイスをする。
 受け付けで声をかけ、食事中に声をかけ、ミーティングに気を配り、出かける時に心を込めて「いってらっしゃい!」をする。しかし、御客さんどうしが盛り上がってる場合は決して表に出ない。静かに裏方に戻っていく。

 ただ、それだけの事で、たったそれだけのことで、『風のたより』に何かを感じてもらう。そして手紙をもらう。それは、とても大変なことなのです。ものすごく大変な事なのです。YHでは、ほとんど口を聞かなかった人から手紙をもらうことは、とてつもなく大変なことなのです。でも、そういった人から手紙を頂ける人は幸せ者です。そして、すごいことだと思うのです。
 もう一度聞きます。
 全国のヘルパー諸君。ホステラーさんから手紙をもらったことがありますか? 住所交換をしてないホステラーさんから手紙をもらったことがありますか? そういう手紙は、とても貴重な手紙です。とてもとても貴重な手紙です。私は、そういった貴重な手紙を抱えて飛行機に乗ったのです。釧路まきばYHに向うために乗ったのです。ホステラーさんからもらった手紙は、私の御守りです。ヘルパーをする時の御守りです。何かあった時、私は、この手紙の束の御守りを励みに頑張るつもりだったのです。

 私は、緊張して釧路まきばYHの門をくぐりました。どうして☆☆君は、釧路まきばYHで、10キロも体重を減らし、体を壊してしまったのだろうか? 私は、釧路まきばYHに、とても不安さを感じていました。釧路まきばYHに何がおきたのか? いったい釧路まきばYHは、どうなってしまったのか?
 しかし、ペアレントさんは優しかった。悦子さんも優しかった。去年苦楽を共にした寺西シェフも優しかった。新しいヘルパーのコウちゃん。ナオちゃんも優しかった。釧路まきばYHのスタッフの皆さんの全てが優しかった。釧路まきばYHは、何一つ、去年と変わるところがなかったのです。むしろ去年以上に、ペアレントも、悦子さんも、新しいヘルパーの皆も優しい人たちだった。どう比較しても、釧路まきばYHのスタッフの人間関係は、去年以上にいい状態でした。悪いところなど何もなかった・・・・。

 そのせいか私は、かなり自由にヘルパーができました。私は一度たりともペアレントさんに注意されたり、指示されることはなく、何度も
「もっと寝ていなさい」
「もっと休んでいなさい」
と言われました。悦子さん(ペアレントの奥さん)にも優しくしていただきましたし、寺西シェフにも、いろいろサポートして頂きました。
 新人ヘルパーのコウちゃんにも、ナオちゃんにも、あたたかく迎えていただきました。二人は、気の毒なくらいに私を立ててくれました。いつも私を中心に積極的に動いてくれました。そして、地道な仕事をコツコツと手掛けてくれました。結果として私は、何から何まで恵まれすぎた状況下に働くことになったわけです。

「こんなに恵まれた環境でヘルパーができるなんて」
「やっぱり、この御守りの御利益なのかな?」

 たくさんの手紙の束を握りしめました私です。そして思ったことは、どうして☆☆君が、こんなに素晴らしい環境で体を壊してしまったのかということです。
実際、☆☆君の評判は、あまりいいものではなかった。☆☆君に何があったのか? 彼は本当にヘルパーとして失格だったのだろうか? 本当に、ヘルパーに向いてなかったのだろうか? そんな疑問が私の脳裏に浮んだ時、私は、あるものを見つけてしまいました。

 そうか、
 そうだったのか・・・・。
 やっぱり、お前は、やってくれてたのか・・・・。
 私は、思わず目頭が熱くなり、胸がつまってしまいました。

 ☆☆君よ。お前は、こんな所に来てまでヒールを演じてくれてたんだな。馬鹿な奴だよ。本当に馬鹿な奴だよ。どこに行ってもヒール。何をやってもヒール。俺は、お前がヒールを演じてくれたおかげで、俺は最高に働きやすい環境にいるよ。俺は今、釧路まきばYHでベビーフェイスをやっている。つまり赤鬼をやっている。お前は、またもや青鬼だったんだな。

 私の目の前には、☆☆君宛てに届いた、たくさんの手紙が置いてありました。旅行中に怪我した人からの手紙。障害者からの手紙。生れて初めてYHに泊った人からの手紙。いろいろな弱者たちからの手紙。そして、あなたが☆☆君に送った手紙がありました。
トップページ ヘルパーとは 仕事内容 待遇その他
募集要項 時間割 体験記 リンク