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ヘルパー体験記
『星の牧場』に風がきた

牧場へ、いらっしゃい!
 手紙
  ヒールとベビーフェイス
 再建
 無垢(むく)の木
 ナホちゃんのオカリナ
 マキロン

牧場へ、いらっしゃい!

再建

 御客さんは激減していました。お盆だというのに30人(定員の半分)しか泊り客がいないという状態は、どう考えても異常でした。こんなことは釧路まきばYH(=星の牧場YH・以下、星の牧場YH)始まっていらいの事だったのではないでしょうか? 去年は多い時で、百人以上の人間を断わっていたのですから嘘みたいです。
 旅行者が海外旅行に流れ、北海道を旅する旅行客が激減しているという話も聞きましたが、それは理由にならないでしょう。何故ならば、摩周湖YHや岩尾別YHなどの人気YHでは、超満員の御客さんを集めていたからです。
 どうして、こんなことになったのか?
 なぜ、これほどまで御客さんが減ってしまったのか?
 しかし、そんなことをいつまでも悩んでいても仕方がありません。大切なのは、過去の星の牧場YHのことではなく、未来の星の牧場YHのことですからね。
 星の牧場YHに、御客さんを呼ばなければ。もう一度、星の牧場YHを盛り上げなければ。それが、全面的にペアレントに任されてしまった私の使命でもあります。そこで私は、去年と同じような形でヘルパーをしたわけですが、苦戦。苦戦の連続でした。

 苦戦した最大の理由は、ヘルパーを始めた時期が悪かったこともありました。私がヘルパーを始めた時期は8月21日です。もう、星の牧場YHの評判が確定してしまっていた時期だったわけです。7月に旅した旅人が、8月に旅した旅人が、仲間に友人に、これから北海道に行こうとする旅人に、何もかも話してしまっていた後だったからです。
「これが7月上旬なら・・・・」
と思った私でしたが、そんなこと言ってもはじまりません。
 どうしよう?
 何とかしなくては?
 とりあえず去年と同じように、御客さんの名前と顔を一生懸命に暗記しました。受け付けの時には、できるだけ御客さんに話しかけましたし、宿泊者名簿(名前と出身地と明日の宿泊先が書いてある)を隠し持っては、もじもじしている御客さんに御茶をさしだしました。障害者や御老人、生れて初めて一人旅をする人や、生れて初めてYHに泊る人にも、なるべく声をかけ、助言やアドバイスをしたりしました。
 受け付けで声をかけ、食事中に声をかけ、ミーティングに気を配り、出かける時に心を込めて、いってらっしゃい! そして御客さんたちが盛り上がってる場合は静かに裏方に戻っていきました。ところが何かが違う。去年とは何かが違っていました。私のやること成すこと、何もかもが空まわりとていました。
 なぜだ?
 どうしてだ?
 良かれ悪かれ去年の御客さんは、私のミーティングを楽しみにしていてくれたし、マナーも良く、なにより感謝の言葉がありました。しかし今年の場合は、正直言って礼儀正しい御客さんばかりとは言えませんでした。
 去年は、多い時には百人の予約を断っていました。つまり、私は御客さんを選べたわけです。具体的に言えば、団体客や非会員の予約を、かたっぱしから断っていました。そのため宿泊客は、YHの会員か、個人客が多かったわけです。あと常識を外れた態度をとる御客さんも断っていました。泥酔してチェックインしようとする人、電話で暴言を言う人なども断っていました。いくらでも予約が入ってくるわけですから、いくらでも断れたわけです。
 しかし、今年は断れなかった。
 当日なのに部屋はガラガラだった。
 断りたくとも、断れなかった。断ってしまえば、売上げは落ちてしまう。
「風さん、御客さんが減ってしまったよ」
「御客さんが、ぜんぜん来ないんだよ」
「去年の数字を見てごらん、いやになっちゃうよ」
 ペアレントが私に言いました。

 ヘルパーをやっていると、よく「○○YHって最高だね」とか
「△△YHって最低なYHだよ」と言う評判を聞きます。しかし、YHの評判というものは、一言で言えるようなものではありません。
 建物、清潔感、施設の充実度、食事の善し悪し、値段、便利さ、ツアーの有無、部屋の広さ、規則の厳しさ、ヘルパーやペアレントの心遣い、雰囲気・・・・。
 いろいろな諸条件によってYHの評判は決定するわけですが、これらの条件は、ある程度、YH側(ヘルパーやヘルパー)が努力すれば何とかなります。しかし、YH側がどんなに努力しても、どうにもならない条件もあります。それは、御客さんの質の問題です。

 御客さんを選べるYHは、幸せです。ドンチャン騒ぎの好きな御客さんだけを選ぶYH。歌を歌いたい御客さんだけを選ぶYH。肉体を使うのが好きな御客さんだけを選ぶYH。静かな雰囲気を好きな御客さんだけを選ぶYH。御客さんを選べるYHは、たくさんあります。
 こういうYHは、御客さんを選ぶYHは、ある意味では強者のYHと言えます。選ぶということは、選ばれなかった人もいるからです。そういう意味では、星の牧場YHは人を選ばないYHです。
 しかし、去年の私は、必ずしもそうでなかった。自分が意図したつもりでなかったにしても、知らず知らずに御客さんを選んでいました。非会員も、団体客も、暴力的な客も、暴走族のような客も、とんでもない非常識な客も、みんな断っていました。そういう御客さんが、はたして弱者の客かどうかはともかく、全て断って、星の牧場YHの雰囲気を守ってきたわけです。だから去年の星の牧場YHの御客さんは、いい御客さんに恵まれていたし、ヘルパーの私たちも、大いに良い御客さんに恵まれていたわけです。つまりヘルパーとホステラーさんの間は、良い関係だったわけです。ところが今年は、そうはいかなかった・・・・。

 最初、私が星の牧場YHに来たばかりの時、ミーティング参加率は低いものでした。せっかく参加してくれた御客さんも、たった10分の私のトークさえ、ろくに聞いてはくれず、私語ばかりが目立っていました。一部の男の子たちは、女の子たちにしか興味がなかったようですし、殺気を感じた女の子は、さっさと部屋にかえっていくしで、ミーティングは、必ずしも成功しませんでした。
 さらに御客さんの半分が、非会員だったり、初めてYHを利用するする人だったことも災いしました。彼ら(彼女ら)のほとんどは、めったに部屋から出てくることはなく、「ミーティングなんてとんでもない!」という人がほとんどで、まちがっても見知らぬ人と旅の話をするような人たちではなかったのです。そして、こういう人たちは、YHの欠点について、露骨に怒ってきました。
「大部屋が嫌だ、個室に変えてくれ」
「同室の人間のイビキがうるさいから何とかしろ」
「お金をとっておいて、禁酒禁煙は許せない。俺は何と言われようが禁酒禁煙を破るよ」
「予約の時、住所と電話番号を聞くな。いちいち面倒だろうが!」
「ミーティングをやめてくれ、あれがうるさくて眠れない。俺は明日の出発が早いから、今日は八時に眠りたい」
 泊る所を間違えたとしか言いようがない人の言葉です。去年の星の牧場YHなら、こういうトラブルは、なかったものです。部屋は何週間も前から予約で満室でしたから、こういう人は泊りたくとも泊れなかったのです。しかし、今年は、こういう御客さんを中心に相手をしなければなりません。こういう御客さんを相手にミーティングをやらなければならなかったのです。憂鬱でした。

 YHのヘルパーをしていて感じたことは、御客さんがサービスと親切を混同していることです。YHの運営は、必ずしも営利だけを求めているわけではありません。

(もっとも、営利を追い求める悪徳YHも中にはありますが)

 したがって、ヘルパーとペアレントの関係は、雇用者と労働者ではありません。私は、ペアレントに雇われているつもりはなかったし、ペアレントも雇っているつもりはなかったと思います。むしろ、ともにYH運動を行なう同志の性格の方が強かったと思います。ペアレントは、雇用者ではなく先輩であり、ヘルパーは労働者ではなく後輩であったわけです。
 YHは、宿というよりは、旅をとおして人間の成長を求める場所です。もちろん、この場合の旅とは旅行のことではなく、広い意味での旅(未知の世界を訪れる)のことです。

 資本主義の原則から言って2300円のサービスなんて、たかが知れています。いくら大部屋でも、素泊まり2300円の宿に期待する方がどうかしています。
 でも、みなさんは、いろいろなYHで素敵な思い出を作られた経験があると思います。ペアレントにヘルパーに親切にしてもらったことがあると思います。でもそれは、親切であってサービスではないのです。好意であっても、善意であっても、サービスではないのです。

 星の牧場YHのサービスは、掃除すること。お金を間違えず受け付けすること。駐車場を案内すること。規則を実行すること。食事を作ること。ミーティングを行なうことです。
 ペアレントがヘルパーに要求してくることは、これだけです。現に、これだけを忠実に実行したヘルパーもいるかと思います。これだけしかやらなければヘルパーは、とても楽なのです。無愛想に応対し、ミーティングはさっさと切上げ、規則どおりに御客さんを10時に寝かせてしまい、ヘルパーたちで酒盛りしたらどんなに楽で、楽しいことか。

 でも、私は、それをするためにヘルパーをしにきたわけではありません。私がヘルパーをしにきた最大の理由は、YH運動(旅をとおして人間の成長をもとめる)の御手伝いをしたくて、釧路まきばユースに来たのです。
 だから、旅人に親切を連発しました。
 これでもか、これでもか! 
 と連発しました。
 それは、旅人に対する親切・好意・誠意であって、
 決して宿泊客が払う2300円に対するサービスではなかったのです。

 ところが御客さんの中には、それをサービスだと勘違いしている人がいました。旅先の親切をサービスと勘違いされては、親切を行なう者は、たまったものではありません。何でも金で買えると思われては、やるせないです。

「では、どうすればいいのだ?」

 私は、考えて考えて考えぬきました。そして、出た答えが、
「御客さんにYHを、YH運動を理解してもらわねば・・・・」
という結論です。さいわい星の牧場YHには、大量のYH関係の書類や本がありましたので、私は、それらを読みあさりました。そして、
「旅とは何か?」
「旅人とは何か?」
をもう一度考えなおしてみました。

 あなたは、日本で一番規則の厳しいYHが、どこか知っていますか? 答えは北海道は礼文島にある桃岩荘です。それを聞くと
「おや?」
と思われる方がいるかもしれません。その桃岩荘に比べれば、星の牧場YHの規則なんて無いようなものです。なのに星の牧場YHには、規則が厳しいと苦情が続出している。
 規則が厳しいから客が来ない。だから全国のYHは規則をゆるやかにする方向に向っています。私も、厳しい規則は好きではありません。だから、寺西シェフやペアレントの隙をうかがっては、規則をゆるめていたわけですが、途中から考えが変ってきました。

「桃岩荘は、あれだけ厳しい規則でやっているのに苦情がでない。でも、星の牧場YHには苦情が続出する。これは、どういうことなんだ? 厳しい規則で御客さんが減るというのは、言い訳ではないか? 星の牧場YHよりも、厳しい規則でも御客さんを呼べるYHが存在しているのはどうしてだろう?」

 そう考えるようになってきたのです。

 苦情がでるということは、YHに魅力がないからです。魅力さえあれば、どんなに厳しい規則でも文句はでてこないはずです。

「そうだ! 星の牧場YHの魅力を引き出そう。どんどん引き出して、御客さんにカルチャーショックを与えてやろう。ついでにYHの良さも引き出そう。YHの良さを知ってもらおう。YHの良さに、星の牧場YHの良さに、何かを感じてもらおう。そして、苦情を言いにくいYHにしてしてしまおう!」

そう思ったのです。
 考えてみれば、これは、すごくやりがいのあることです。全くYHを知らない、生れて初めてYHに泊る人たちの心を動かすことくらい、面白いことはないかもしれません。間違えてYHに泊ってしまった御客さんをYHにハメてしまう。これほど愉快なことが他にあるでしょうか?
 素晴らしい御客さんの相手ばかりするよりも、我が侭な御客さんの心を動かすことの方が、何倍も面白いことです。客が来ないことだって、ある意味ではチャンスです。自分たちの力で客を呼ぶチャンスと言えます。ペアレントには悪いですが、困難こそ自分たちの力を試すチャンスです。
 そういう意味では、ペアレントの指示する厳しい規則も、ツアーが無いというハンデも、釧路YHより値段が高いというハンデも、8月末という時期的なハンデも、みんなチャンスといえます。ハンデは大きければ大きいほど自分を試せます。
「やってやろうじゃないか!」
 私は、心の底から叫びました。

 いらっしゃい、
 いらっしゃい、
 釧路に、いらっしゃい。
 湿原に、いらっしゃい。
 YHに、いらっしゃい。
 いらっしゃい、
 いらっしゃい、
 淋しい時に、いらっしゃい。
 悲しい時に、いらっしゃい。
 怒った時に、いらっしゃい。
 いらっしゃい、
 いらっしゃい、
 わがままな御客さん、いらっしゃい。
 YH嫌いな御客さん、いらっしゃい。
 初めてYHに泊る御客さん、いらっしゃい。
 星の牧場で、待っています。

 そして、私は御客さんに話しました。ミーティングの時や、受け付けの時に話してみました。こんな話をしてみました。

 旅人になりましょう!
 旅行者をやめて、旅人になりましょう!
 旅は心でするものです。
 情報誌でするものではありません。
 旅の情報は、YHのミーティングで聞きましょう。
 同室の旅人から聞きましょう。
 たまたま、そばにいた旅人から聞きましょう。
 そこから旅を始めるのです。

 この、星の牧場YHは、みなさんにとっては、未知の世界です。隣にいる人だって未知の世界の人です。私だって、みなさんから見れば未知の世界の人間です。旅は、ここから始るのです。未知のものにふれあうところから始るのです。さあ、みなさんの旅は、たった今から始ります。いえ、もう始っているのです。
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