旧作 旧作・高原へいらっしゃい 
(昭和50年度・山田太一作品) 

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語録&解説  

第3話 詐欺師に疑われたコック長をめぐって

「亥太郎、卵を3個とフライパンだ」

「(面川に)私が信じられなくなったかな」
「いえ、信じてはいますが」
「確かに目の前で作っているところは見たことはなかったね」
「ええ」
「見せなきゃいけないね」
「わざわざ、そんなことしたくないんですが、私も、このホテルにかけているものですから」
「コック長がニセモノじゃ大変だ」
「ニセモノだなんて」
「私はニセモノじゃない」
「もちろんです。もちろんニセモノじゃありません」
「信じてくれるかな」
「信じてます。初めから信じています」
「わざわざ目の前で、それじゃ作る必要はないね」
「・・・・」
「亥太郎、卵はやめた。面川さんが信じてくれた」
「高間さん!」
「は」
「御願いします。オムレツを作って下さい。見せていただきます。申し訳ありません」
「やはり信じてもらえないかね」
「信じられないことをしたのは高間さんじゃないですか。相談もなしに40万の買い物をされたら予算は無茶苦茶になってしまいます」
「私は絶対に必要なモノだけ買ったんだ」
「食器だってあるじゃないですか、コーヒーカップも、パン皿もスープ皿も 30人分、ほとんど欠けないで揃っているじゃないですか」
「間に合わせようとすれば間に合わせられるがね。亥太郎、皿を2〜3枚だ」
「今のままでは気に入らないということでしょうが、軌道に乗るまで間に合わせてほしいんです」
「間に合わせるというのが私は嫌なんだよ。間に合わせていては、いい料理はできない。しなびたジャガイモで間に合わせるというのも嫌いだし、悪い肉で間に合わせるというのも嫌だ。私の料理は、この皿ではのらないんだ。いい料理は、いい食器でもある。私の料理は、この皿でないといやなんだ。そういう我が儘が、私の料理だと思って」
「・・・・」
「但しね、ずいぶん遠慮したんだよ。ただしね、ずいぶん遠慮したんだよ。デミタスもない。前菜の食器も、デザートの皿も欲しかった。我慢したんだよ。とうぶんの間は、買ってきた皿の範囲内でメニューを決めようと思っている。これはね、最低限度の買い物なんだ」
「・・・・」
「オムレツつくろう」
「高間さん」
「うん?」
「結構です。私は信じます」
「そんな甘いことでいいのかね? 詐欺師なら今くらいのことは誰でもしゃべるよ」
「結構です」
「そう。亥太郎、みんなを呼んできなさい。コック長がオムレツを作るってな」
「高間さん!」
「みんなも疑っていたんじゃないかね」
「私が話します」
「亥太郎、呼んできなさい」
「・・・・」
「いや、あなたが信じてくれたらオムレツくらいいくらでも作る」
「すいません」
「いやね、みんなに信じられないままに、みんなが見ている前でオムレツを作らされたんじゃ惨めだ。私はね、作る前に、あんたにだけは信じてもらいたかった」
「(面川の笑顔)」
「私はニセモノじゃない」
「(笑顔でうなずく面川)」

解説

 第1話では、ネガティブな人間が多いなかで、コック長の高間さんだけが「私は面川さんを信じる」と言って、それがきっかけで、みんながホテルに残ることになった。今度は、コック長の高間さんが、相談もなしに40万の食器を買って帰ったことで、詐欺師だと疑われたのですが、それを面川が、どう対処したか? 重要な場面です。宿泊施設は、スタッフ全員がが信じ合えるようなところでないと、うまくいきません。なぜそうなのかという事については、後述します。