語録&解説
第3話 詐欺師に疑われたコック長をめぐって
「亥太郎、卵を3個とフライパンだ」
「(面川に)私が信じられなくなったかな」 「いえ、信じてはいますが」 「確かに目の前で作っているところは見たことはなかったね」 「ええ」 「見せなきゃいけないね」 「わざわざ、そんなことしたくないんですが、私も、このホテルにかけているものですから」 「コック長がニセモノじゃ大変だ」 「ニセモノだなんて」 「私はニセモノじゃない」 「もちろんです。もちろんニセモノじゃありません」 「信じてくれるかな」 「信じてます。初めから信じています」 「わざわざ目の前で、それじゃ作る必要はないね」 「・・・・」 「亥太郎、卵はやめた。面川さんが信じてくれた」 「高間さん!」 「は」 「御願いします。オムレツを作って下さい。見せていただきます。申し訳ありません」 「やはり信じてもらえないかね」
「信じられないことをしたのは高間さんじゃないですか。相談もなしに40万の買い物をされたら予算は無茶苦茶になってしまいます」 「私は絶対に必要なモノだけ買ったんだ」 「食器だってあるじゃないですか、コーヒーカップも、パン皿もスープ皿も 30人分、ほとんど欠けないで揃っているじゃないですか」 「間に合わせようとすれば間に合わせられるがね。亥太郎、皿を2〜3枚だ」 「今のままでは気に入らないということでしょうが、軌道に乗るまで間に合わせてほしいんです」 「間に合わせるというのが私は嫌なんだよ。間に合わせていては、いい料理はできない。しなびたジャガイモで間に合わせるというのも嫌いだし、悪い肉で間に合わせるというのも嫌だ。私の料理は、この皿ではのらないんだ。いい料理は、いい食器でもある。私の料理は、この皿でないといやなんだ。そういう我が儘が、私の料理だと思って」 「・・・・」 「但しね、ずいぶん遠慮したんだよ。ただしね、ずいぶん遠慮したんだよ。デミタスもない。前菜の食器も、デザートの皿も欲しかった。我慢したんだよ。とうぶんの間は、買ってきた皿の範囲内でメニューを決めようと思っている。これはね、最低限度の買い物なんだ」 「・・・・」 「オムレツつくろう」 「高間さん」 「うん?」 「結構です。私は信じます」 「そんな甘いことでいいのかね? 詐欺師なら今くらいのことは誰でもしゃべるよ」 「結構です」 「そう。亥太郎、みんなを呼んできなさい。コック長がオムレツを作るってな」 「高間さん!」 「みんなも疑っていたんじゃないかね」 「私が話します」 「亥太郎、呼んできなさい」 「・・・・」 「いや、あなたが信じてくれたらオムレツくらいいくらでも作る」 「すいません」 「いやね、みんなに信じられないままに、みんなが見ている前でオムレツを作らされたんじゃ惨めだ。私はね、作る前に、あんたにだけは信じてもらいたかった」
「(面川の笑顔)」 「私はニセモノじゃない」 「(笑顔でうなずく面川)」
解説
第1話では、ネガティブな人間が多いなかで、コック長の高間さんだけが「私は面川さんを信じる」と言って、それがきっかけで、みんながホテルに残ることになった。今度は、コック長の高間さんが、相談もなしに40万の食器を買って帰ったことで、詐欺師だと疑われたのですが、それを面川が、どう対処したか? 重要な場面です。宿泊施設は、スタッフ全員がが信じ合えるようなところでないと、うまくいきません。なぜそうなのかという事については、後述します。
|