旧作 旧作・高原へいらっしゃい 
(昭和50年度・山田太一作品) 

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語録&解説  

第7話 面川清次の名案


「長野に行ってくださるんですね」
「ゴルフ場をまわるって言っただろう」
「まだそんな事を言ってるんですか?」
「2ヶ所の支配人を知っているんだ。紹介してもらえれば5ヶ所くらいまわれるだろう」
「しかし、ゴルフ場の客に、ゴルフのできないホテルを紹介してどうなるんですか? 長野の旅行社に顔をつないだ方がいいって、夕べ何度も言ったじゃないですか」
「支配人を通じてね、見込みのありそうな客に、少数の人にしか教えないが、こういうホテルがオープンしたと挨拶してくる。あまり宣伝はしたくない。混むのは困る。ただ、あなただけには教える。季節はずれの高原が美しい。特別にお安くする。御家族でたまには高原などいかがですかと、秘密をうちあけるように話をしてくる」
「私の知人に金儲けの話をしょっちゅう話している人がいました」
「・・・・」
「こうやって、こうやって、こうやると億という金も夢ではないとね。名案だろうって、しょっちゅう話していました。もちろん、しょっちゅう貧乏していましたがね。あなたの今の話し方は、そいつの話し方にそっくりです」
「聞いておこう」
「どうして洒落た客ばかり狙ってるんですか!」
「・・・・」
「あなたは見栄をはってるんだ。見栄をはってる余裕なんかないんだ」

解説

 客はこない。予算は、どんどん減っていく。そんな中で、大貫徹夫(前田吟)は団体や旅行会社を狙えと助言しますが、面川清次(田宮二郎)は、あくまでも個人のお客さまの口コミを狙おうとしていました。そして2人は対立するわけですが、あくまでもホテルの差別化を狙おうとする面川と、とりあえず目先の現金収入を追求しようとする大貫の考えは、どちらも正しいと言えます。両方が正しい。どちらが正論かと言えば、大貫の方が経営の観点から正論を言っています。

「こうやって、こうやって、こうやると億という金も夢ではないとね。名案だろうって、しょっちゅう話していました。もちろん、しょっちゅう貧乏していましたがね。あなたの今の話し方は、そいつの話し方にそっくりです」

という大貫の発言は、ものすごくドッキリさせられますが、さすが経理課長だけあって、大地に足をつけて見据えたような発言ですね。本当に正鵠をえており、大貫のいうとおり面川のアイデアは、失敗に終わります。ただ、こういう失敗をする面川が駄目人間かというと、ちょっと違うんですね。こういう夢を見る人間がリーダーでないと、人はついていかないんです。大貫には、誰もついていかない。夢見る面川だからついて行く人が多いんです。