ブルーベリー 旅に出たい人へ
  風のひとりごと

旅とビデオ

 私はビデオを持って旅をします。私の記憶力はあまり良いほうではないのですが、ビデオのおかげで誰よりも旅先での出来事を覚えています。なにしろビデオは全てを再現してくれるのです。私はそれを何時だって何度だって見る事ができます。けど、ビデオを持たぬ多くの旅人はどんな素晴らしい景色もどんな楽しい出来事も、すぐに忘れてしまうようです。
 夢は朝目覚めてしまうと殆ど全てを忘れてしまいますが、旅先の感動もそうです。夢のようなものです。その夢を再生する機械を持ってる私は悲しいものです。
 旅が終り、何度も何度もVTRを編集しているうちに、画面に写った景色と人々に次第に愛着を覚えてき、旅先での感動はますます鮮明になっていくばかりです。けれど、多くの旅人たちにとって、夢は夢でしかありません。旅人は旅が終ったとたん、夢から覚めるものです。

 考えてみれば夢は星みたいなものかもしれません。朝がくれば星は消えてしまいます。夢も消えてしまいます。でも消えてしまった星は確かにそこにあるのです。夢もまた確かにそこにあるのです。世の多くの人々は夢を架空の出来事と考えていますが、とんでもない間違いです。星が消えていくのは太陽の光りが強すぎるからで、けして星が無くなるわけではありません。夢もそうです。目覚めると夢が消えてしまうのは現実という光りが強すぎるからで、けして夢が無くなってしまってるわけではありません。夢は確かにそこにあるのです。私はそう思ってます。
 思えば私は夢の中の人間です。私と同世代の友は、いつのまにか、もう夢を見る事のない世界にいます。北海道で同じ夢をみれた者もいつしか夢を見る事のない世界にいってしまう事でしょうが、願わくば昔見た夢の記憶をほんのちょっぴり思いだしてほしい。そう、思う今日この頃です。だからこそビデオを皆さんに配ったりしています。
【風のひとりごと】
(旧「風のたより」2号掲載文・1992)

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